おとうさん、おかあさん
原田八重(志摩町)著
「長針だけの時計」より
 ある家に電話をしたら、かわいい声が答えてくれた。私が名前を告げると、バタバタ走る音がしていたが、「おとうさん、でんわですよ」と取り次いでくれている声が聞こえてきた。
 ちょうど親の呼び名を考えていた私には、何にも増してこの「おとうさん」がうれしかった。
 昨年席をならべていた同僚の先生に「お子さんは、先生のことをどう呼ばれますか」と話しかけると、小さいときから「おとうさん」だという答えだった。
 先生はさらに次のようにつけ加えて下さった。「子どもが、親をどう呼ぶかは、これはまったく親の責任ですからね。私は『とうちゃん』とよんでいたのですが、高校ごろから困りました。父と二人の時はいいですが、友人の前では『とうちゃん』ともいえず、だんだん話しかけなくなりました。こどもにはこの気持ちを味あわせたくないので……」
 私が気になるのは、とうちゃん、かあちゃんはさておき、パパ、ママという呼び方である。はじめて口をきく幼子は、おかあさんよりママの方がいいやすいし、かわいいだろう(かわいいといっても、それはその人の感じだから、私などは小さなこどもがたどたどしく「お母さん」と呼んでいるのを聞くと、なんとかわいいとふりかえってみる。)
 最近韓国に行ったが、パパ、ママと呼んでいるのを一度も聞かなかった。若い人たちでもみんな「アッパ、アブジ」(おとうさん)、「オンマ、オモニ」(おかあさん)であった。
 外国のことばで親を呼ぶことは、考えてみるとおかしなことではある。といえば世のパパ、ママからにらまれるかもしれない。
 「おとうさん」「おかあさん」。この美しいあたたかなことばを大切にしたいものである。

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