No.52 平成15年3月
 
 

 

 
3月(弥生)の歳時記

もうぐら打ち(1)
郷 田 敏 男
八女市柳島

絵 梅 本 光 男 広川町長延
 「パーン、バーン」「ボクン、ボクーン」。辺りは未だほの暗い。うす明かりにも霜のひどさがよくわかります。凛とした朝のしじまを破って、遠く近く、鋭く鈍く、もうぐら(もぐら)打ちをする音が聞こえてきます。「モーグラ打チノ 十四日 ネキダレコギダレ ウッ叩ケ」。地低い爺さんの声と、これを真似る孫のかん高いおらび声が入ります。何処かで打つ音が聞こえ出すと、直ぐ跳び起きて、負けじとばかり打ちまくります。よそから叩き出されたもぐらが、わが家の坪先(内庭)にもぐってくるというので、屋敷じゅうを打ちまくって追い出すわけです。軒垂れ(軒下)から坪先、せんぜ(前栽)の周りまで隈なく打つのです。
 十三日の学校の退け時か、学校から帰ってから、川ん土居に女篠を切りにいきます。大きくて太いのから、家族の数くらい倒してきます。すると、待ち構えている爺さんが作ってくれるのです。小学校も上学年ともなると、見慣れ聞き慣れで自分の手でもどうやら物になるようです。篠のてっぺんに蒲の穂のように藁を丸めて付けます。簡単なようですが、ただ藁を丸めてくびるだけでは、力まかせに叩く時にふっ飛んでしまうのです。「ソゲンジャン。竹ン枝ニ 葉ノツィータママ、藁ニ巻ッコーデ、確リ 結ットカント スポーット 抜ケルモンナヤ。」くろなりがた(夕方)までに大小作って、げ(軒さき)に立て掛けて置きます。
 「パーン、パーン」と地面の固い坪か、大人の男が叩く音。「ポクーン、ポクーン」と柔らかい畑の周りが、子が叩く音。ひとしきり、賑やかな音が、村じゅうに響き渡ります。
 
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